もし「J.K.」と聞いて即座に「女子高生」という連想をした人は変態であることは間違いないが、ディスコおじさんにもなれば恐らく「Beat It/J.K.」を思い浮かべる人もいるだろう。
「J.K.」はヨーロッパやイギリスなど各国のチャートを荒らした「Saturday Night」の「Whigfield」をはじめ、現在でも「Dave Rodgers Music」でユーロビートをリリースしている「Annerley Gordon」こと「Ann Lee」や、ディスコおじさんにも馴染みの深い「Fun Fun」などのプロデューサーである「Larry Pignagnoli」と「Davide Riva」によるプロジェクトだ。
デビューナンバー「You Make Me Feel Good」がカナダで大ヒットし、本国イタリアやドイツでも好評を得た。
続く「Beat It」、そしてサードシングルである「You & I」がやはりヨーロッパ各国で大ヒットし、一躍人気アーティストとして「Advance」や「Fun Fun」など「X-Energy Records」のレジェンドと肩を並べる存在となる。
チャートアクションも悪くなく、日本にも評判は届いているはずなのだが・・・1993 年、当時の日本はテクノ・ブームに狂乱していた。
1993 年 春
ムーヴメントの噂は海外までに轟き、世界各国のTV局も多数取材のため来店。またこのころからシャンデリーや過激なファッションが流行し始めた
The Best Of Juliana’s Tokyo – 10 Years Since The Grand final – より引用
いわゆる「ジュリアナ東京」の典型的なステレオタイプのイメージな時代だ。
ワンレン、ボディコン、扇子・・・過激なファッションに身を包んだ女子が扇子を振り回して踊り狂っていた。
残念ながら、そんな時代の流れに入り込めず、「J.K.」は日本では無名な存在となってしまったのである。
だが、テクノ・ブームが終焉した数年後。突如として「Beat It」が発掘され、クラブを中心にプレイされ始めた。
当時は海外からレコードを持ち帰った DJ がプレイした無名曲が「楽曲の良さ」というただ一点でブレイクすることが、稀によくあったのだ。
大手ディスコでもプレイされるようになり、やや遅れて日本でも「Beat It」がヒットしたのである。
このナンバーも最初にリリースされたのは 1993 年だが、こちらはオリジナルのままで現在になって突如ブレイク。とても 3 年前にリリースされたとは思えないほどに “今” のサウンド・アプローチが施されている。独自の声質の女性ヴォーカルが主体ながらもドラマチックでスケール感に溢れる爽快なダンス・ナンバーだ。
Velfarre vol.5 – Dance To infinity – より引用
このことは、即ち、テクノ・ブームの間、日本のダンス・ミュージック界の進歩が止まっていたということを意味する。
バブルが崩壊し、ディスコも次々とクローズ、一時 J-POP にも進出して国民を巻き込んだジャングルも不完全燃焼で、次のヒットを模索し、様々なジャンルが試行錯誤された時代。
「Beat It」はオーソドックスなユーロダンスである。
結局、ヒット曲というのは、人の踊りたいという欲求に正直な普遍性の強いサウンドなのだ。
さて、時代も大きく変わり、2020 年。
再び、この名曲がリミックスされた。
ジャンルはトランス。
2014 年「Sarah Jane Neild」をフィーチャーした「Screaming Inside」を含む EP でデビューしたイギリスの DJ である「Andy Cain」がリミックスを担当している。
哀愁を感じるメロディとトランス特有の高揚感が気持ちいいサウンドだ。
今の音にリメイクされた「Beat It」。
現時点でほとんど評価されていないし、存在すらあまり知られていないようだが・・・原曲同様、時を経ってブレイクするのか。
その様子を見守りたい。
Beat It (Andy Cain 2020 Remix)/J.K.